the book-review columns

書評コーナー
大鮃---藤原新也
 朝日新聞の書評で、同書と沢木耕太郎の『春に散る』が取り上げられていた。
春に散るは新聞連載で読み通したので、『大鮃』を読んでみた。

 藤原と沢木は、同時代に、体験の質は違えど優れたノンフィクションを発表してきたので、朝日では並んで論じていたのだと思う。

 大鮃は、一気に読み通すことができた。それなりに、面白かった。

 藤原の小説第一作だという。主人公は、ゲーム中毒になり、精神科医のカウンセリングで、幼少期に死に別れた父が住んだことがある、アイルランドの田舎町目指して、初めての海外ひとり旅に出かけることになる。
 そこで、老人の現地ガイドに伴われて、一応名所と言われているところを巡る。

 ここまでは、ノンフィクションと同じ記述である。その先からが問題であろうか。

 まず、一介の旅行者として名所巡りをするわけであるが、出会う人物があまりに個性的、名所の体験が特殊すぎ、これはあまり上手とは言えないフィクションだな、と感じざるを得なかった。
 ラストは、ある娘との邂逅が余韻をもって描かれ、そこは上手だと思った。沢木のあからさまな叙述より巧みだろう。

 あと、読んでいてひっかかりがあるところは、旅先で体験をするたびに、以前はまり込んでいたゲームの画面のシーンが重ねられることである。旅というのは、私見では非日常の特権的体験で、ゲームを想起するなどありえないと思う。
 もうひとつは、読んでいてLGBT的慰安ともいう安堵感があるのが文学だと、自分は思っているので、露骨に男は男、女性は女性的であらねばというバックグラウンド(前提概念)で書かれると、文学的慰安は吹き飛んでしまうということだ。

 大鮃の映像版という写真集『風のフリュート』を見た。こちらは、藤原的な、いつもの藤原ワールドを楽しませてくれる。やっぱり、写真の技術はスゴイね。
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